「誰にでも表現はできる」と
いつも静かにはげましてくれる
友人のような物語
『雲ができるまで』は、1997年にリブロポートから出版され、その後ブルース・インターアクションズから発売されていましたが、長く入手困難になっていた書籍の復刻版です。
信陽堂の丹治さんの言葉を借りてお伝えさせていただきます。
「舞台は湘南・葉山でアーティスト永井宏さんが90年代半ばに運営していた〈サンライト・ギャラリー〉は、バブル以降の新しい価値観を求め、自分らしい生きかたを模索する人たちが集い、この場所からたくさんの才能が巣立っていきました。「暮らすこと」をひとつの表現ととらえ、日々の小さな出来事やささやかな気持ちの変化を共有することを作品にしようとした永井さんの試みと、それに共感し自分らしい生き方と表現を探しはじめた若者たちの姿をみずみずしくスケッチした作品集です」
わたしが、『雲ができるまで』を初めて読んだのは2001年ブルース・インターズアクションから出版された時でした。その時は永井さんに出会っていたので、永井さんの話をいろいろ聞きながら本のモチーフになった人を思い、想像を膨らせ、自分も手を動かし何かを生み出したいと考えたことを思い出します。
そして、今、再び、信陽堂出版からうまれた美しい本を読みました。復刻版だとわかっていても、以前のことだと考えることもなく、今、そしてここからにつながる何かを感じました。さらにリブロポートの後書きや、ブルースインターズアクションの際の後書き、そして、堀内さんの言葉に触れて、雲のようないくつかの話は物語だけにとどまらず、今もなおやさしく語りかけ、何かのたびに皆の背中を押してくれるように思いました。
いつも手に取れる場所に置いておきたい本、何かのたびに、または何もなくても頁をめくり、気にとまった言葉を声にしたくなる本、そして、人と人を繋いでくださった永井さんのように、時間をかけてたくさんの人にお伝えしていきたい本として、姉妹編でもある『愉快のしるし』(信陽堂)と共に『雲ができるまで』をご覧ください。
- 文・写真・アートワーク:
- 永井宏
- 印刷:
- 藤原印刷+日光堂
- 製本:
- 加藤製本
- 編集:
- 信陽堂編集室(丹治史彦・井上美佳)
- 発行:
- 信陽堂
- サイズ:
- 新書変形判上製(177ミリ×117ミリ)304ページ
- ISBN:
- 978-4-910387-03-1 C0095
永井宏(ながい ひろし)美術作家。1951年東京生まれ。1970年なかごろより写真、、ビデオ、ドローイング、インスタレーションなどによる作品を発表。80年代は『BRUTUS』(マガジンハウス)などの編集に関わりながら作品を発表した。1992年、神奈川県の海辺の町に転居。92年から96年、葉山で生活に根ざしたアートを提唱する「サンライト・ギャラリー」を運営。99年には「サンライト・ラボ」を設立し雑誌『12water stories magazine』を創刊(9号まで刊行)、2003年には「WINDCHIME BOOKS」を立ち上げ、詩集やエッセイ集を出版した。自分でも旺盛な創作をする一方で、各地でポエトリーリーディングの会やワークショップを開催、「誰にでも表現はできる」とたくさんの人を励まし続けた。ワークショップからはいくつものフリーペーパーや雑誌が生まれ、詩人、作家、写真家、フラワーアーティスト、音楽家、自らの表現として珈琲焙煎、古書店、雑貨店やカフェ、ギャラリーをはじめる人などが永井さんのもとから巣立ち、いまもさまざまな実験を続けている。2011年4月12日に永眠。59歳だった。2019年『永井宏 散文集 サンライト』(夏葉社)、復刻版『マーキュリー・シティ』(ミルブックス)が相次いで刊行され、リアルタイムでの活動を知らない新しい読者を獲得している。(『愉快のしるし』より)
信陽堂 Shinyodo Edit Brico丹治史彦と井上美佳により2010年信陽堂編集室としてスタート、書籍、冊子などの編集、制 作を中心に活動。2019年には『永井宏散文集 サンライト』(夏葉社)を編集した。 2012年より「たねやグループ」(滋賀県近江八幡市)の広報誌「La Collina/ラ コリーナ」の クリエイティブディレクションを担当。東日本震災後には地元有志とともに「石巻 まちの本 棚」を立ち上げ、活動をサポートしている。また、自社スペース「信陽堂アトリエ」にて記 録映画の上映会や各種ワークショップなども企画運営している。 2020年には出版社としての活動も始動、その1冊目が『愉快のしるし』となる。 丹治は在籍したリブロポート、メディアファクトリー、アノニマ・スタジオでそれぞれ永井 宏さんの書籍を編集してきた。
信陽堂HP